64. 私はその椅子をつくりました

「〜をつくる」という意味の UM-動詞は gumawa です。活用は gumawa, gumagawa, gagawa です。「椅子」はタガログ語で upuan あるいはスペイン語からの借用語 silya です(スペイン語では silla です)。ですから「私は椅子をつくりました」という意味のタガログ語の文をつくりますと、

 Gumawa ako ng upuan. 私は椅子をつくりました。

または

 Gumawa ako ng silya. 私は椅子をつくりました。

となります。 gumawa gumawa の過去形ですね。さあ、ここまでは大丈夫でしょう?

さて、このページでは「私はその椅子をつくりました」と目的語を特定する文をつくる練習をしましょう。「目的語を特定する」って何でしょう? 少しずつ説明してみますが、さあ、みなさんにうまく伝えられるでしょうか。

「その椅子」は silyang iyan なので、じゃあ Gumawa ako ng silyang iyan. としたらどうなのかと申しますと、残念ながらこの文ではちょっとまずいのです。

さて、じゃあどう表現するのか? その前に焦点という概念についてちょっと説明させてください。(ここのところはタガログ語学習の峠のひとつです。めんどうでも我慢して! 次のページへ飛び越えてもきっと行き詰まりますから)

では借用語 silya を用いた Gumawa ako ng silya. 「私は椅子をつくりました」の文に戻りましょう。この文では、「どの椅子」だとか、「誰の椅子」だとかは言っていません。文の焦点、英語のフォーカス(focus) という語がよく使われるようですが、あるいは話題(topic)といいましょうか、これが目的語にはなく、「つくる」行為を行っている「行為者」である ako に(文法的には)ある文なのです。「行為者」の ako を、では si John 「ジョン」にしてみますと、もちろん Gumawa ng silya si John. 「ジョンは椅子をつくりました」となりますし、ang tatay ko 「私のおとうさん」を「行為者」にしますと、 Gumawa ng silya ang tatay ko. 「私のおとうさんは椅子をつくりました」となります。このように「行為者」はどれも ang の形ですね。ako は「私」の意味の人称代名詞の主格、すなわち ang の形ですし、si John も ang 形です。

このようにタガログ語の文の焦点/話題は ang (の形)で示されます

Gumawa ako ng silya. 「私は椅子をつくりました」の文の焦点は gumawa 「つくる」という行為をする「行為者」にあります。ですからこの文は行為者に焦点のある文といえますし、また動詞 gumawa を行為者焦点の動詞、行為者に焦点をおく際に用いる動詞とよぶことができます。gumawa はUM-動詞です。これまで練習してきました UM-動詞や MAG-動詞はこの行為者焦点の動詞なのです。

次に Gumawa ako ng silyang iyan. という文ですが、どこがまずいか、と申しますと、目的語の silyang iyan の箇所です。行為者焦点の動詞である UM-動詞の gumawa を用いた場合に、焦点のあたらない目的語が silyang iyan 「その椅子」と特定はされないのです。行為者焦点の動詞の文の目的語は、「その(特定された)椅子」ではなく、「(特定されていない)椅子」なのです。焦点が目的語にはないものですから、「どの椅子」かについては、行為者焦点の動詞の文では述べられません。英語を使って恐縮なのですが、行為者焦点の動詞の文での「椅子」は a chair で、the chair や that chair ではありません。ですから Gumawa ako ng silya. という文は、英語の I made a chair. に相当するであろうと思われます。これを英語の I made the chair. 「私はその椅子をつくった」や、 I made that chair. 「私はその/そこの椅子をつくった」に相当する文にする場合、タガログ語では次に説明します IN-動詞 という動詞を用いるのです。(ただし、Kumain ako ng tinapay na iyan. というような文は実際に話されています。これは「私はその種の、それと同じ種類のパンを食べた」というような意味になるでしょうか。この場合の目的語「それと同じパン」も特定されたものではないと思われますので、行為者焦点動詞の対象は特定されない、というルールを逸脱するものではないでしょう)

前おきが長くなりました。「私はその/そこにある椅子をつくりました」という意味のタガログ文は次のようになります。

 Ginawa ko ang silyang iyan. 私はその/そこにある椅子をつくりました。

上の文はまた「私はその/そこにある椅子を修理しました」という意味にもなるでしょう。

ところで「その/そこにある椅子」の日本語箇所を太字にしましたのは、そこに焦点があり、文の話題となっているからです。この文では焦点は目的語 (あるいは動詞の対象といいましょうか) にあるのです。そして目的語/対象に焦点を当てた文をつくる場合には、UM-動詞 gumawa ではなく、IN-動詞 ginawa を用います。なぜ IN-動詞とよぶのかについては次のページで説明するつもりですので、ちょっと待っていてください。さて、IN-動詞の文では、目的語/対象に焦点があたり、タガログ語の文の焦点は ang (の形)で示される ということなので、当然この目的語/対象が ang 形で示されます。

そして文の行為者、UM-動詞の文では焦点のあたっていた「誰が」つくったのかの箇所には IN-動詞の文では焦点は当たりませんので、「行為者」は ang 形ではありません。IN-動詞の文の行為者は ng 形で表されます

すなわち、IN-動詞 + ng 形の行為者 + ang 形の目的語/対象 という構文になります。そして IN-動詞対象焦点の動詞というふうによんでいます。では次の文をみてください。

 Maghihintay ng barko si Maria. マリアは船を待ちます。

上の文はもちろんこれまでに練習しましたMAG-動詞を使った文です。maghintay は「待つ」という意味で、活用は naghintay, naghihintay, maghihintay です。さて、この文の焦点はどこにあるのでしょうか? もうおわかりですね。MAG-動詞もUM-動詞同様に行為者焦点の動詞ですので、この文の焦点は ang 形の行為者 si Maria にあります。マリアはどの船かはわかりませんが、とにかく船を待つのです。どの船か、に関してはこの行為者焦点の動詞の文では述べてはいません。ところが次の IN-動詞を使った文ですと、

 Hihintayin ni Maria ang barko. マリアはその船を待ちます。

と、「どの特定の船か」に文の話題/関心が移っています。マリアは他の船ではない、「その船」を待つのです。「その船」と特定された目的語/対象に文の焦点はあたりますので、ang barko となりますし、焦点のあたらない行為者の Maria は ng 形の行為者ですので、ni Maria と表現されていますね。行為者の Maria はひと/人物ですので、もちろん特定された存在ではありますが、IN-動詞の文の焦点ではありません。

(ああ、むずかしーいっ!) (わかりにくーいっ!) (わかりにくいタガログ語だ!) 「わかりやすいタガログ語」とタイトルしましたこのサイトですが、今ですから本当のことを申しますと、タガログ語は実は少々わかりにくい言葉なのでしょう。「文のつくり」がちょっと複雑ですので、みなさん、このページはたいへんかもしれませんね。私たちも「わかりにくいタガログ語」をできるかぎり「わかりやすく」解説するつもりで頑張ります。

このページでは「文の焦点」と「IN-動詞」について説明しました。IN-動詞の活用等に関してはまだ説明していませんので、おぼえる必要はここではありません。またこのページを一度読まれただけでは、おそらく焦点等の「概念」がなかなか把握できないことと思われますので、何度か読んでみてください。次のページよりいよいよ IN-動詞の練習がはじまります。

 

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